非常勤職員には災害補償を請求する権利も認められないのか

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みなさん、こんにちわ。
弁護士の佃です。

今日は、どうしてもみなさんにお話ししたいことがあり、
ブログを書かせていただきます。

昨日、私と生越弁護士は、訴訟代理人弁護士として、
北九州市を相手に、遺族補償等請求訴訟及び損害賠償請求訴訟を提起しました。

朝日新聞
毎日新聞
西日本新聞
ヤフーニュース

今、市役所では、職員のうち3割以上は非常勤職員さんと思われます。
みなさんが何か相談したいと思って市役所に行ったとき、
まず、窓口で対応してくれる職員の方の多くは非常勤職員さんです。

みなさんに最も身近な存在である市役所の非常勤職員さんには、
公務災害を請求する権利はないという自治体が数多く存在するのです。
常勤職員であれば、公務災害を請求できるのに・・・
最前線で働く非常勤職員には、その請求権すら認められていないのです・・・

公務災害の請求権を認めないことが許されると、
市役所側が公務災害ではないと判断すれば、
公務災害はなかったことになります。
常勤職員や一般の労働者の場合は、労災請求権が認められているので、
労災請求などがあったことは記録にも残りますし、
どういう理由で労災請求があったのかも記録に残ります。
労災認定がされるかどうかはさておき、職場で何か労働問題があったことはわかります。
そのため、労働問題があったことを把握できるとともに、
その問題に対し労働環境を改善しようと努力することもできます。

しかし、市役所の非常勤職員の場合は請求権が認められていないため、
職場で非常勤職員にどのような労働問題があったのか、
その職場の所属長が労災と認めない限り、
何ら記録にも残りません。
労災隠しも容易です。
そう、今回、私が担当した事件のように、
職場の長が「パワハラなどはなかった」といえば、
それで終わりです。
そのため、記録上は、非常勤職員の労災事件はほとんどないということになっているのです。

非常勤職員の方は、安い給料で、常勤職員と同様の仕事をさせられ、
むしろ最前線の窓口対応を担わされているにもかかわらず、
常勤職員には認められている労災の補償請求権さえも認められていないので、
本来ならば適切な補償を受けられる人も受けられていないのです。
さらに、職場環境も何ら改善されることはありません。
だって、何も労働問題はないことにされているのですから・・・

「どう考えても納得できない・・・・」
「非常勤職員の方の労働環境を改善しないと・・・」
「また同じような犠牲者が出てしまう・・・」

今回、私たちが訴訟を提起した理由は、
二度と同じような痛ましい事件が起こらないようにするためです。

また、非常勤職員の方の労働環境を改善することは、
私たちが一番よく利用する相談窓口などがより一層よくなることにもつながります。
この問題は非常勤職員の問題だけではなく、行政サービスを受ける私たちにも係る問題です。

非常勤職員に対して災害補償請求権を認めない自治体は北九州市だけではありません。
残念ながら、全国に数多くあります。
一方で、東京都のように、非常勤職員の請求権を認めるなど適切に条例を制定している自治体もあります。

どうかお願いです。
災害補償請求権を認めていない自治体におかれましては、
早急に条例を改定するようお願いいたします。
また、非常勤職員の労働環境を調査するとともに、
適切に労働環境を整備するようお願いいたします。

最後に、今回の訴訟で原告になったお母さんの言葉をここに掲載させていただきます。

また、一日が終わります。
佳奈に逢える日がまた一日近づきました。
かわいい、かわいい一人娘。
私はあなたの永遠のお母さん。
私は、佳奈の母として、
佳奈が望んでいることをがんばってやっていこうと思っています。
佳奈は、臨床心理士になることを目指して大学院で勉強し、
卒業後、障がいのある子どもたちの相談にのって力になりたいと
戸畑区役所に非常勤職員として就職し、相談業務に従事しました。
佳奈は、本当に仕事が好きで、
新米でしたが、懸命に相談者の力になりたいとがんばっていました。
ところが、佳奈が働き出して半年後くらいから、
佳奈から仕事がしんどいなどと相談を受けるようになりました。
母として、話を聴いて応援するくらいしかできず・・・
佳奈から「もう限界 迎えに来て」というSOSを受け、
私たちが迎えに行ったときには、佳奈はもう自分の力では歩けないほど疲れ果てていました。
こんなになるまで働かせられていたの・・・?
その日から、私の知っている笑顔の佳奈はいなくなりました。
しばらくの間、佳奈は毎日うつろな目をして寝て過ごし、
職場からの電話には怯えていました。
そして、このときに発症したうつ病は治ることはなく、
佳奈は苦しんで苦しみ抜いた末に、大量の薬を飲み亡くなりました。
佳奈を苦しめた上司には心からの謝罪をしていただきたいと思います。
そして、非常勤職員だということを理由に、
私たち遺族ら本人の請求権を認めない制度も見直していただきたいと思います。
佳奈は、生前、非常勤職員という不安定な身分で嫌がらせを受け苦しめられたうえに、
亡くなってからも、非常勤職員という身分のために、
常勤職員とは異なる扱いを受け、遺族ら本人の遺族補償等を請求する権利も認められないのです。
どうか、二度と佳奈と同じような犠牲者が出ないよう、
非常勤職員の方が苦しむことのないよう、
非常勤職員の方の労働環境や労災の補償制度を改善してください。
それが、佳奈と私の願いです。

4件のコメント

  1. 民間企業の場合にアルバイトでも認められるような労災保証請求権が、市の非常勤職員の場合には認められないという事ですか?
    もしそうなのであれば、びっくりです。
    本件訴訟が良き前例となるように、先生方に健闘して頂きたいです。

  2. エールをありがとうがとうございます!
    ご指摘のとおりです。
    ほんとに、驚きですよね・・・

    でも、おそらく、廿日市市役所も非常勤職員の労災請求を明文で認める条例は作成していないはずです。
    私が知る限り、法律に基づいて、適切に条例を作成しているのは、東京都と東京都内の自治体のみです。
    他の自治体は、当時国が作成した、誤った条例案をそのまま使っているから・・・各自治体には、憲法で法律の範囲内で条例を作成する権限を認められているのに、東京都のような大規模な自治体でないと、法律に即して条例を作成できるだけの力がないというのが実情なのでしょうか・・・
    もっとも、自治体の中には、事実上非常勤職員にも労災請求権を認める扱いをしているところもあります。

    本来、法律の範囲内で、地域の実情に合わせた条例を作成することが想定されているのに・・・
    どんな規模の自治体であっても、条例が法律の範囲内かどうか適切に判断できる力は必要だと思います。

    訴訟の結果を待たずに、それぞれの自治体が自主的に関係条例を改正してくれることを切に願います。

  3. 突然のコメント申し訳ございません。

    北九州市が門前払いをした様子が、目に浮かびます。

    私もまた同様の身分で北九州市に新人として入り、上司に執拗ないじめを受けました。戸畑区ではありませんが…。
    教育相談員という、この仕事が大好きでしたが、上司のいじめは、私の笑顔も自信も生きる力も、何かを楽しむ力も、全てを奪っていきました。

    病院に通っても、病休扱いにもしてもらえず、辞めました。

    私には北九州市を相手にする勇気も気力もありません。どれほどの労力がいるでしょう。佳奈さんのお母さんの、佳奈さんを失った悲しみ悔しさが、それほど強いのだと感じました。

    私がどん底にいたとき、
    いつも心配してくれる先輩が職場に一人だけいました。分厚い手紙をくれ、四枚程度の手紙の他にも、いつも入浴剤が1つ入っていました。
    優しく細やかで、誰よりも仕事をして、誰よりも仕事ができていました。
    どんなに忙しくても、私を心配して、仕事が終わると電話をかけてきてくれました。

    佳奈さんのお母さんの言葉を読んで、いてもたってもいられず、コメントしてしまいました。北九州市を出て、次の職場に恵まれ、私は元気になりました。あの時、うつを抱えながら、私を助けようとしてくれた先輩のおかげです。

    業務が多いというだけでなく、残業が美徳とされるあの環境を変えない限り、
    そして新人にパワハラをしてもいいという暗黙の空気を変えない限り、第二第三が生まれます。

    陰ながら応援しています。

  4. 北九州市民でした 様

    森下佳奈の母、森下眞由美です。
    コメントをありがとうございました。
    裁判で心が折れそうになることがあります。
    そんな中、北九州市民でした様の言葉に勇気を頂きました。
    きっと優しい北九州市民様と娘、佳奈が繋げてくれたと思いました。嬉しかったです。

    何よりも
    「次の職場に恵まれ、私は元気になりました。」の言葉に救われました。良かった・・・

    娘が亡くなる前の職場でちょうど北九州市民でした様のような職場の仲間の方がいて私は話を聞いていました。
    たぶんその方が娘に宛てた手紙と思われるものもありました。

    北九州市民様と先輩のお話が
    娘とその職場の方との話と重なって
    娘から聞いていた方も元気になっていてくれたらと祈りました。

    入浴剤
    娘も腰の悪い私に手紙と共に送ってくれたことがあります。
    そんなことも思い出しました。

    応援コメント
    私の前に進む力となります。
    ありがとうございます。

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