私こと佃が訴訟代理人弁護士となって担当している、故森下佳奈さん(北九州市の非常勤職員)が上司のパワハラ等によって自死した事件についての記事が、本日、朝日新聞の朝刊に掲載されました。
佳奈さんのお母さん、眞由美さんの思いがとうとう国を動かしました。
亡くなった佳奈さんが非常勤職員であったために、常勤職員と同じ公務災害補償制度ではなく、各地方公共団体が条例で定める補償制度の適用を受けるのですが、北九州市は条例及び条例施行規則に被災職員及び遺族らからの申出を認める規定がないことを理由に、母眞由美さんらの公務災害であるとの申出を門前払いとしたのです。
北九州市は、門前払いとしたことにより、公務災害であったのか、それとも公務災害ではなかったのかの認定も何もしないという対応をしました。
そのため、北九州市を相手に、災害補償を求める訴訟を提起するとともに、門前払いとした対応は違法であると損害賠償請求をしたのです。
今回の総務省による一部改正の指示は、母眞由美さんが野田総務大臣宛に、「北九州市の非常勤職員であった娘が上司によるパワハラ等が原因で自死し、北九州市に対し労災申請をしたが、旧自治省が約50年前に作成した準則に即して作成された条例には、被災職員及び遺族らには請求する権利はないと門前払いにされたこと」「非常勤職員の方が苦しむことのないよう、非常勤職員の労働環境や労災の補償制度を改善してください」などと記載した手紙を送付し、これを受け、野田総務大臣が被災職員及び遺族から申出があっても、認定に活かされない場合があることによって不合理を強いていることは否めないとの考えに至り、大臣として、総務省が示している条例施行規則(案)の見直しを各地方公共団体に指示することにしたものです。
訴訟としては、北九州市に対し、遺族である眞由美さんたちの公務災害であるとの申出を門前払いとしたことは違法であるとし、損害賠償請求をしているものであり、直接条例施行規則を改正するよう求めるものではありませんが、非常勤職員であっても、被災職員及び遺族らからの申出を認めるよう制度を変えてほしいと切に願っていました。
まだ訴訟は進行中ですが、眞由美さんの願いは一つ叶いました。
訴訟代理人弁護士としても、今回の総務省の改正を求める通知は一歩前進と評価しています。
もっとも、今回の改正案の内容は、国家公務員の災害補償制度に倣ったものですが、国家公務員の場合は、すでに昭和45年に、同様の規定が整備され、被災職員及び遺族らからの公務災害であるとの申出が規定上認められていたことを考えれば、それから約50年も経過してようやく・・・遅すぎる改正であると思っていますが。非常勤職員の公務災害補償制度ということで、放置されていたのではないかと思うと、やりきれない思いでいっぱいです。
今回の総務省の通知によって、北九州市、その他のまだ同様の規定を設けていない地方公共団体は速やかに条例施行規則を改正してほしいと切に願います。
とはいうものの、地方公務員の場合、非常勤職員と常勤職員とで、公務災害補償制度が異なることについてはやはり問題であると思っています。
国家公務員については、常勤職員も非常勤職員も同じ公務災害補償制度の中で補償されます。
どうして、地方公務員の場合は、非常勤職員と常勤職員とで、公務災害補償制度が異なるのでしょうか。
昭和42年地方公務員災害補償法(以下、「地公災法」という)の制定の際、非常勤職員は地公災法の補償の枠組みから外され、各地方公共団体の条例に委任されることになりました。
本来、常勤職員も非常勤職員も区別なく、地公災法に一本化すべきでしたが、非常勤職員はその種類及び勤務の態容が各地方公共団体ごとに千差万別であり、給与についてもまちまちであったために、その範囲や負担率などを算出できないという技術的な問題から、地公災法に組み入れることができず、条例に委任せざるを得なかったのです。
ですが、今は、常勤職員と実質的には同じ仕事をしている非常勤職員は増えており、常勤職員と非常勤職員とで公務災害補償制度が異なるのは不合理であると思われ、また精神障害の労災認定は専門な判断が必要とされ、各地方公共団体によっては労災を的確に認定できるだけのノウハウもないところも多いと思われます。
現在は、コンピュータの発達により情報処理能力も大幅にアップし、非常勤職員の範囲や負担率などを算出できないという技術的な問題もほぼ生じないと思われます。
今こそ、非常勤職員の公務災害補償制度について抜本的な改革を図るべきであると考えます。
9月10日に野田総務大臣と面会し、非常勤職員の公務災害補償制度についての抜本的な見直しを要望する予定です。
隣で同じように働いている人と災害補償制度が異なるのはおかしいと思いませんか?